製造業における個別受注生産の強みは、顧客のニーズに応える柔軟なオーダーメイド対応にあります。その反面、設計業務の属人化や標準化の難しさといった課題を抱えている企業も少なくありません。これは、長らく「個別受注生産では避けられないデメリット」として受け止められてきましたが、競争環境が激化する現在、設計効率の向上や業務の見直しに取り組む企業が増えています。その突破口となるのが、BOM(部品表)を整備し、モジュール化と流用設計を推進することで実現する「半見込生産」へのシフトです。
本記事では、半見込生産を実現するためのBOMの考え方と、標準化を推進するための4つの実践的アプローチを解説します。
目次
個別受注生産の設計課題、「標準化」が求められる理由
個別受注生産における代表的な5つの設計課題
原価管理の難しさ
検索性の欠如
煩雑さ
標準化難易度
業務効率の低下
前回のコラム「個別受注生産における設計業務の課題とは?代表的な5つの設計課題を解説」では、見積精度の低下、設計データの散在、設計変更管理の煩雑さ、部品・モジュール標準化の難易度、属人化による業務効率の低下という5つの課題を取り上げました。これらは一見すると別々の問題に見えますが、その多くは設計情報や設計資産が十分に整理・共有されず、組織として活用できていないことに起因しています。
例えば、過去の設計資産を十分に活用できなければ見積精度の向上は難しく、設計情報が分散していれば流用設計も進みません。また、設計変更の履歴や判断根拠が適切に管理されていなければ、後工程での手戻りや品質リスクにつながります。さらに、標準部品や設計ノウハウが共有されていなければ流用設計が進まず、結果として業務は特定の設計者に依存しやすくなり、属人化のリスクも高まります。
こうした課題を解決するうえで重要となるのが、「標準化」の考え方です。もちろん、個別受注生産は、顧客ごとの要求仕様に応じたオーダーメイド対応が求められるため、すべてを標準化できるわけではありません。しかし、共通化できる部品や設計情報、設計ルールを整理し、流用可能な設計資産として管理できれば、見積精度の向上、設計変更管理の効率化、設計データの一元化、属人化の抑制など、前回取り上げた課題の改善が期待できます。
海外競合との価格競争が激化する中、コスト競争力の強化や製品投入までのリードタイム短縮は喫緊の課題です。そのため、多くの企業では個別受注生産の強みを維持しながら、部分的にでも設計業務の標準化に取り組むことが求められています。そして重要なのは、これは設計部門だけの問題にとどまらないという点です。購買・製造・営業を巻き込んだ全社的な取り組みとして、経営課題として推進する必要があります。
BOM活用と流用設計が半見込生産へのシフトを実現する
個別受注生産における設計課題への対策として、その強みを維持しつつ、設計効率を高める「半見込生産」が注目されています。この実現に向けて、部分的・段階的な標準化を取り入れ、BOM(部品表)の整備とモジュール化に取り組む必要があります。
多くの個別受注生産企業では、設計情報が設計者ごとにバラバラに管理されており、過去の設計資産を有効に活用できないことがあります。設計者が図面や技術資料、部品など必要な情報を検索するのに膨大な時間を費やす、あるいは目的の設計情報が見つからず、類似したものをゼロから設計してしまう、といったケースも少なくありません。
しかし、BOMのように、体系的かつ構造的に整備された情報のデータベースがあれば、類似案件での流用設計が格段と進めやすくなります。部品をゼロから設計する手間を省き、既存の設計資産を前提とした流用設計が進むことで、コスト削減とリードタイム短縮を同時に実現できます。
さらに、設計資産を継続的に再利用できる環境が整えば、「半見込生産」への移行も現実的な選択肢となります。「半見込生産」は標準化されたモジュールをベースに顧客仕様のカスタマイズを加える生産方式です。個別受注生産と見込生産の中間的なアプローチとして位置付けられ、個別受注生産の柔軟性を維持しながら、標準化による効率化を実現できる点が大きな特長です。この方式により、以下のようなメリットが期待できます。
半見込生産への移行で得られるメリット
設計・見積回答リードタイムの短縮
標準モジュールの活用により、設計時間を大幅に削減
品質の安定と向上
検証済み部品の流用により、設計品質のばらつきを抑制。属人化による品質リスクも低減
調達・製造コストの削減
部品の共通化による調達ロットの最適化と購買力の向上
流用設計の促進
検索性向上により、経験に依らない設計資産の活用が可能に
設計ルールの標準化
標準モジュールを基準とした設計ルールの確立
これらのメリットは、顧客満足を保ちながら企業の競争力を高める重要な要素となります。そして、その実現を支える考え方の一つが、次章で紹介する「150%BOM(スーパーBOM)」です。
150%BOM(スーパーBOM)による受注BOM生成の考え方
では、標準化や流用設計を実際の業務として成立させるためには、具体的にどのようなBOMを整備すればよいでしょうか。
半見込生産では、顧客ごとの要求仕様に柔軟に対応しながらも、可能な限り標準部品や標準モジュールを活用することが重要です。しかし、案件ごとに一からBOMを作成していては、そのメリットを十分に享受できません。そこで、半見込生産を促進する有効な考え方として、「150%BOM(スーパーBOM)」があります。
通常のBOM、すなわち、ある製品に対して確定した部品をまとめたBOMを「100%BOM」と呼ぶとすれば、150%BOMとは、「実際の製品に必ずしもすべてが使われるわけではないものの、想定されるすべてのバリエーションや選択肢をあらかじめ含んだBOM」を指します。例えば、モーターA・B・Cや、100V・200Vといった複数の選択肢をあらかじめ一つのBOMの中で管理しておき、受注時に必要な構成のみを選択できるようにする考え方です。
つまり、部品やモジュールの標準化を進め、あらかじめ想定されるバリエーションを事前に整理しておくことで、顧客からの受注時には「選択・追加・削除」というシンプルな操作だけで、顧客仕様に応じた受注BOMを生成できます。これにより、設計者がゼロからBOMを構築する負担を大幅に軽減できます。
【150%BOMから受注BOMへの展開方法】
– 選択: 選択肢から顧客仕様に合うものを選ぶ
(例:材質A/B/Cから選択)
– 追加: 標準にない特殊仕様や追加機能を追加
(例:特注部品の追加)
– 削除: 不要な標準部品やオプションを除外
(例:簡易仕様での対応)
この仕組みにより、過去案件で使用した標準部品やモジュールを継続的に流用しやすくなります。また、構成ルールが明確になることで見積や設計の属人性を抑え、品質の安定化にもつながります。
さらに、この運用を実現するうえで重要になるのが、製番管理と版管理です。同一部品番号でも製番単位で異なる仕様の構成を管理できること、そして設計変更の履歴を追跡できる体制が不可欠です。これにより、「どの顧客向けにどの仕様で製造したか」を正確に把握でき、トレーサビリティの確保にもつながります。
この150%BOMという考え方は、標準化と流用設計を支える基盤として機能し、見積精度の向上、設計変更管理の効率化、品質の安定化、設計リードタイムの短縮などの設計課題の改善にも寄与します。半見込生産への移行を進めるうえでも、まず取り組むべきBOM整備のアプローチの一つとして考えられます。
標準化・モジュール化を推進するためのポイント
半見込生産への移行を進めるためには、単にBOMを整備するだけでは十分ではありません。標準化や流用設計を継続的に機能させるためには、運用面での取り組みも必要になります。ここでは、標準化・モジュール化を推進するうえで押さえておくべき4つのポイントを紹介します。
1. 採番ルールを統一する
流用設計を推進するためには、必要な部品や設計資産を迅速に検索できることが重要です。しかし、同じ部品が異なる名称や品目コードで登録されていると、検索性が低下し、重複登録や不要な新規設計を招いてしまいます。そのため、部品や図面の採番ルールを全社で統一し、誰が登録しても同じ基準で管理できる環境を整備することが重要です。
2. BOMを継続的に維持・更新する
BOMは一度整備して終わりではありません。設計変更や部品廃番、新規部品追加などに合わせて継続的にメンテナンスする必要があります。更新責任者の明確化や変更管理ルールの整備を行い、常に最新の状態を維持することが、流用設計や標準化の効果を維持するための前提条件となります。
3. 関係部門を巻き込んで運用する
BOMは設計部門だけで利用する情報ではありません。購買部門は調達計画に、生産管理部門は生産計画に、製造部門は作業指示に活用します。そのため、設計部門だけでルールを決めるのではなく、関係部門を含めた共通基盤として運用することが重要です。これにより、設計から製造まで一貫した情報活用が可能になります。
4. 営業活動との整合を図る
モジュール化や標準化を進めても、毎回大幅な個別仕様を受注していては流用設計の効果を十分に得られません。標準モジュールで対応できる範囲を整理し、営業部門と共有することで、個別対応と標準化のバランスを取りながら受注活動を進めることができます。
これらの取り組みは、いずれも独立した活動ではありません。採番ルールの整備、継続的な運用、部門横断での活用、営業との連携が組み合わさることで、BOMを活用した標準化や流用設計が定着していきます。
こうした取り組みを継続的に運用し、標準化の効果を最大化するためには、設計情報を一元管理できる仕組みが欠かせません。その基盤となるのがPDM(製品情報管理システム)です。
スモールスタートで始めるPDM活用と半見込生産への第一歩を
ここまで見てきたように、個別受注生産における設計課題の多くは、設計情報や設計資産を組織として活用できていないことに起因しています。見積精度の向上、設計データの一元管理、設計変更管理の効率化、流用設計の促進、属人化の抑制を実現するためには、BOMを活用した標準化の取り組みが重要です。
一方で、設計の標準化やモジュール化は、すぐに成果が出るものではなく、相応の時間と労力が求められます。しかし、長期的に見れば、リードタイム短縮やコスト削減、品質の安定化を実現するためにも取り組むべき経営テーマです。
こうした取り組みを推進するためには、設計に関するあらゆる情報を体系的に管理できるIT基盤が欠かせません。PDMやPLMは、BOMや図面、設計変更履歴、承認プロセスなどを一元管理し、標準化・モジュール化の活動を支える基盤となります。もちろん、システムを導入するだけでは課題は解決するわけではありません。業務プロセスのあり方を見直し、運用ルールを整備してこそ、PDMの価値を最大限に引き出すことができます。
そのため、まずは小さく始めることが重要です。全社一斉に改革を進めるのではなく、効果を得やすい領域から取り組み、成功体験を積み重ねながら展開していくことが現実的なアプローチといえます。
スモールスタートの具体例
個別受注生産の強みは、顧客ごとの要求に柔軟に対応できることです。その強みを維持しながら競争力を高めるためには、標準化できる領域を見極め、設計資産を継続的に活用できる仕組みを構築する必要があります。BOMを活用した流用設計とモジュール化を推進することで、その強みを維持しながら、個別受注生産でも標準化や半見込生産への移行を進めることが可能です。まずはスモールスタートでBOM整備に取り組み、その基盤としてPDMを活用しながら標準化を進め、設計効率向上と競争力強化につなげていきましょう。

